印刷業は地方において情報・文化のハブとして、頼りにされている場合が多い。地域固有の文化、風俗、習慣などを熟知している利点を活かし、多種多様なメディアや付帯サービスを組み合わせて、地域の活性化や成長を、地域ぐるみで実現するための「まとめ役」的な存在を担う。
「販促」「イベント」「広報」「リクルート」「顧客データ管理」など、業種や業界に特定されず多くの企業や組織に必要な”特定の機能”を、最適なメディアと付帯サービスを組み合わせ、高い専門性で提供していくスペシャリスト。
特定の業種・業界の製品、ビジネス、あるいは業務プロセスを熟知し、顧客と同等の立ち位置から課題解決に努め、最適なメディアや付帯サービスの選択と活用を提案・提供する。2と3を組み合わせ、特定業界の特定機能に的を絞ったBPO※の展開も考えられる。
印刷物を含む多種多様なメディアを、自らもリスクを負い、商品として自他のチャネルで販売する。キャラクターグッズ、ステーショナリー等の紙製品、トランプ・トレーディングカード、フリーペーパー、出版、電子出版など、デジタル印刷の活用により小ロット多品種の展開も可能である。
個人や商店ユースに対応する「プリントショップ」の発展形。パーソナライズされた印刷物、ギフト、その他多様なメディア関連商品を扱い、同時に利用者によるコミュニティも提供するなど、同じ価値観を持つ人たちの新たなコミュニケーションハブとしての可能性も期待される。
印刷製造に特化し、卓越したコスト・品質・納期対応や、特殊加工などで付加価値を提供する。徹底した合理化と戦略的設備投資により、プリプレスからポストプレスまでのワンストップ対応で印刷製造機能をリードする。日本企業のグローバル展開に同調した海外展開も期待される。
これまでグーテンベルグに見る印刷業の社会的使命の考察から現在までの時代背景と当事者のメディアとしての印刷業の強み、ソリューション・プロバイダーに必要な3要素、そして戦略方向性としての6類型の定義を通じて、未来を担う新たな「Insatsu産業」創出の可能性を探ってきた。最後にまとめとして全印工連会員各社がソリューション・プロバイダーに至る進化のステップを示しておきたい。
まず初めに現状の分析、すなわち現在の事業ドメイン(領域)の分析を行う必要がある。分析にあたっては特に「強み」の分析に注力し、新たなドメイン作りの基礎としたい。詳しくは「原点回帰」の項を参照されたい。
次に内外の環境変化、すなわち市場ニーズの変化と将来予測を行い、自社の強みを活かせる方向性を検討する。場合によっては成長性の低い分野については統廃合も検討する必要があろう。感情に流されず科学的かつクールな分析が求められる。
自社の強みとそれを活かせる市場の分析を経て、強みを活かす戦略の方向性の検討と事業ドメインの再定義となる。前述の6類型を参考に新たなビジネス領域を定義する。6類型は必ずしも1つだけが適用されるとは限らないので、複数の類型の組み合わせなども積極的に検討する必要がある。
事業ドメインを再定義したら、そこに向かうために具体的にどのようなソリューションが必要かを洗いだしてみる。たとえば特定機能プロバイダーで「販促」に特化すると決めた場合、顧客はどのようなソリューションを必要としているのかを調査し、そのニーズを満たすために必要なリソースを洗いだす。現状自社にないものであれば、パートナーと提携するか、新たに人材を採用する等の必要が出てくる。
必要なリソースが明確になれば、あとは行動計画を立て実践するのみである。これら一連のステップをクリアするための具体的手法や事例については、次章からの6類型の詳細を熟読されたい。
進化のステップ全体を通して必要なことは、前項「経営者の志」でも触れたように、自社が果たして来た役割を検証し、大義に照らしてこれからの自社の存在意義を求め続ける姿勢、すなわち「印刷道」を極めようとする経営者の「背中」である。経営者の志はすべての変革の礎となるものである。
地域活性ビジネスに取り組もうとする際、
印刷会社が他業種より有利な点
印刷を中心とした日々の情報加工ビジネスを通じて地域のリソースを知っている
デジタルデータも含め情報加工技術の蓄積があり、経済的に情報の収集・加工・発信ができる
土地や設備、内部留保といった資本を持ち、労力やスペースを提供できる
印刷会社に新興企業は少ない。伝統ある会社が多く、地域において信用やネットワークがある
印刷会社は発信者として受信者の中間にあり、地域活性を中立的にプロデュースしやすい立場にある
販売促進、イベント、広報、リクルート、顧客データ管理、権利問題管理、価値向上(企業、商品、地域などのブランディング)など業種や業界に特定されず、多くの企業や組織に必要な特定の機能を、最適なメディアや付帯サービスと組み合わせながら高い専門性で提供するサービスのことを特定機能プロバイダーと定義する。
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地域活性ビジネスに取り組もうとする際、
印刷会社が他業種より有利な点
必要な資源として著作権、商標の登記や権利と保護(意匠権、人格権、肖像権など)のプロ代行サービスメディアとしてデザインを行ったすべてのパッケージ、サイン、のぼり、販促系商業印刷物など人材・ノウハウなどにおいては権利問題の法務知識、登記上の事務手続き、類似品、模造品などの情報収集ノウハウと権利問題発生時の対応ノウハウ、裁判の知識・対応などのスキルが必要とされる。日常的に必要な知識や業務ではないだけに、中小企業にとってはなかなか専属部門や、人員は準備できないだけに特定機能のプロバイダーとしての需要は潜在的にあると考えられる。
今まで一般的な業界ではクライアントの思いつき、社内のミーティングで決定したネーミング、商品開発、パッケージデザインなどの原稿を受けとるところからビジネスがスタートすることが多いようであるが、その一歩手前からお手伝いし、発売後のメンテナンスまで請け負えるならクライアントのPDCAサイクルにおける特定業務の歯車としてパートナーの存在価値がある。
大手同業の法務課や知財関係部署で戦略的に行っているようだ。本来印刷業は知財の塊といってもけっして大袈裟ではない。全国の中小企業において専門部署をおいて管理していることもないのが実態だけに、権利問題のプロフェッショナルとして業務を請け負いたい。
紙への印刷に限らず、タオルやTシャツ、ボールペンへの名入れ、パネルなど印刷に関わる機能すべてをワンストップで提供できるサービスが求められる。必然的にネットによる受発注が有利となるし、現在でも代表的なところで言えば、「販促花子」「販促.com」などすでに成熟化しているサービスがあるが、完全データで直接発注するクライアントはまだ少数である。地域密着型の我々はプリントサービスプロバイダーの窓口となり、クライアントのブランディングや顧客満足を上げる相談に乗ることが重要であり、紙へ印刷するというメディアプロダクツから効果の上がるプリントサービスへと発想を変え、事業領域も製造業+サービス業へドメインの拡大を図ることが多くの仲間の生き残る方法の一つであると考えられる。
プロモーションサービスプロバイダーとはプリントサービスプロバイダーを進化させ、事業領域を拡大したものと考えていい。データ受けからスタートするビジネスモデルを一つ手前の企画設計から請け負うサービスであるが、提供する商品やサービスも、プリント以外のイベント企画運営などの事業領域に発展している。これらサービスをビジネスモデルに組み込むには、専門の企業とのコラボレーションが必要になる場合が多い。具体的にはヒアリングから市場分析、販売戦略、戦術設計、実施運営と紙に印刷するという収益モデル以外の業務を、新たな収益モデルにしなければ利益を出すことは難しい。株式会社プロネート(東京都板橋区)、株式会社FIS(東京都品川区)などがプロモーションサービスプロバイダーのポジションではないかと考えられる。
お客様に対して、継続的に利益貢献できる仕組みを作るために、お客様と一緒になってプロモーションサービスプロバイダーの業務に加え、実施運営の後、結果検証とその結果を踏まえた分析を行う。その上で次の仮説をたてPDCAをマネージメントシステムとして提供するサービスになる。このビジネスモデルはなかなか表に出てこないが、上記で紹介した株式会社プロネートも近いビジネスではないかと考えられる。その他、福博印刷株式会社(佐賀県佐賀市)でもデータマイニングから次期販売促進計画まで請け負っているなど、水面下では確実にマーケティングサービスプロバイダーの事業領域に拡大している同業が増えていると考えられる。